2013年11月22日

SSL土千本プレビュー

【土方先生のHな補習授業】24P/300円
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今回は前編。

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「斎藤先輩、すみません。この問4が良く分からないんですが、教えて貰ってもいいですか?」
「ああ──これは、異なる過程を一度に解こうとしているから巧く行かないのだ。
 まず最初に、与えられている3辺から、余弦定理を使ってcos∠ABCを求める必要がある」
「あ、なるほど……じゃあ、次に外接円の半径を、正弦定理から計算すればいいんですね」
 優等生である彼の解説はとても分かり易く、すんなりと頭に入ってくる。引っかかっていた部分が氷解して、数式が綺麗に解けていくのが心地いい。
「なぁなぁ千鶴、俺もここの現代訳分かんないんだけど。教えてくれよ」
「……何故雪村に尋ねる。彼女はあんたの後輩だろう」
 横から古文の例題を差し出す平助に、斎藤が呆れた視線を投げた。平助は悪びれる様子も無く、へへ、と無邪気な笑い顔を見せる。
「だって千鶴、古文の成績めちゃくちゃいいんだぜ。
 期末テストだって、確か古文は満点だったんだろ? 土方さんの作るテストって難しいのに、すげぇよなぁ」
「ふーん……千鶴ちゃん、古文は得意なんだ?」
 別段変哲も無い沖田の相槌に、不穏なものを感じたのは何故だろうか。
 こちらを見つめる翆色の双眸に、妙に愉しげな光が宿っている。──気がする。彼がこうした表情をするのは、何かしら腹に一物抱えている時だ。
「あ、あの……私、どちらかと言えば文系寄りで……特に、古文は昔から好きなだけで、それほど得意ということも……」
「へえ?」
 もごもごと言い募る千鶴へと、沖田が更に顔を近づけてきた。邪気の無い満面の笑みを浮かべているが、それが却って怖く感じる。思わず身をのけ反らせると、その弾みに取り落としたシャープペンが、甲高い響きを立ててころころと床に転がった。
「あ……」
 固いものが跳ね返る小さな音に、斎藤が形の良い眉を顰める。彼は手元のノートから面を上げて、沖田の眉間あたりを冷たく見据えた。
「総司、あまりそいつをからかうな。──大丈夫か、雪村?」
「えー、僕別に何もしてないけど? 古文は得意なんだ、って聞いただけじゃない」
「わ、私なら平気です。ペンを落としただけですから」
 この二人はどうも相性が悪いのか、一度口喧嘩が始まると収拾がつかなくなる。はぁ、とこっそりため息をついてから、上半身を屈めて机の下を覗き込むと、幸いシャープペンは足元のすぐ近くに落ちていた。
 手を伸ばして、銀色のペンを拾い上げようとした瞬間、
「ひゃあっ!?」
 いきなり背中をつつつっ、となぞられて、裏返った悲鳴が上がる。反射的に勢い良く体を跳ね起こすと、ガタンと派手な音を立てて椅子と机がぶつかった。白昼の静まり返った館内に、思いの外盛大な騒音が反響する。
 咎めるようにこちらを睨む司書の視線が突き刺さった。言うまでもなく、この自習室で騒ぐのは厳禁である。下手をすれば、薄桜学園の生徒全員が巻き添えを食って出入り禁止になりかねない。あわあわと姿勢を正した千鶴は、ぺこりと司書の方に頭を下げてから、小声で真横の少年に食ってかかった。
「沖田さん、何するんですか……っ!?」
「ん? 透けてたから、つい」
「透けてた、って、何が──あ、」
 一瞬遅れて、千鶴は沖田の言っている意味を理解する。途端にぼんっ、と両の頬が熱くなるのが分かった。熟れたリンゴのように赤く染まった少女の顔を見て、彼はくすりと猫じみた笑い声を零す。
「今日はピンクなんだ? 可愛いね、千鶴ちゃん」


     †     †     †     †     †


「あの……お口に合いませんでしたか?」
 難しい顔をしつつ、無言で食事を咀嚼する土方の姿に、千鶴はそこはかとない不安を覚えたようだった。おずおずと上目遣いで聞いてくる少女に、彼は小さく苦笑する。
「ん? ああ、美味いぜ。
 お前の作るもんが、俺の口に合わねえなんて事はねえから、心配すんな」
 今日のメニューは、具沢山の炊き込みご飯に茄子の甘辛炒め、とろろの味噌汁に、梅ドレッシングで味付けした豚肉とゴーヤのサラダと言った取り合わせだ。箸休めに、ピリリと唐辛子の利いた白菜の浅漬けも添えてある。夏休み中も激務に追われ、体調管理がおろそかになりがちな彼のために、しっかりと栄養バランスが考えられた献立だ。暑さで弱った胃にもたれないよう、さっぱりした調味料で味を整える気遣いも千鶴らしい。
 彼女を褒めた土方の言葉に、少女は曖昧な笑顔を見せた。
「そうですか……それなら、いいんですが」
 やはり歯切れが悪い。いつもなら、頬を染めて照れながらも、素直に嬉しそうな表情をする筈なのに。
 若干気まずい雰囲気で食事を終え、後片付けも済ませてしまうと、土方は千鶴を手招いて自分の隣に座らせた。少しだけ間を置いてソファに腰を下ろした彼女の体を、ひょいと抱き上げて膝に乗せてやれば、千鶴はあわあわと慌てふためいて身じろぎする。まるで、人に慣れない子猫のようだ。背中をぽんぽんと叩いて落ちつかせてから、土方は彼女の顔を上げさせて、微妙に焦点がずらされたままの瞳に視線を合わせた。
「で、おまえはまた、何をそんなに凹んでるんだ?」
「べ……別に、そんなこと……無い、です」
 案の定、彼女はもごもごと小声で土方の問い掛けを否定する。が、生憎彼は、そんな事で騙されるほどお人好しではない。
「……おい、千鶴。
 てめえ、俺の目が誤魔化せると思うなよ」
 意識して声のトーンを一つ下げると、びくりと華奢な肩が強張った。眉がハの字に下がっていて、その情けなさそうな顔に思わず吹き出しそうになるが、それを堪えて精一杯怖い顰め面を作る。
「てめえはただでさえ嘘をつくのが下手なんだ。腹ん中にいらねえもんため込んじまう前に、とっととおとなしく白状しちまえ」
「う……」
 千鶴は尚も言い渋っていたものの、土方が相手では、初めから彼女に勝ち目などない。
 脅したり宥めすかしたりと手を変えつつ、訥々と話す千鶴の口から図書館での出来事をすっかり聞き出した土方は、その内容に文字通り頭が痛くなった。
「はぁ……ったく、総司の野郎……」
 額に手を当てて天井を仰ぐ男の胸で、すべてを話し終えた千鶴は、身の置き所が無いかのように体を固くしている。その両目はうっすらと潤んでいるが、泣いてはいないようだった。勝手だと分かっていても、その事に少しだけ安堵を覚える。出来る事なら、彼女の涙は見たくなどない。己がその理由であるなら尚更だ。
「あー……あのな、千鶴」
 ──さて、どうやって千鶴の気持ちを解きほぐしたら良いものか。
 頭脳明晰な土方だが、こうした状況はあまり遭遇した事が無く、内心かなり狼狽していた。
 今までなら、付き合った女から過去の遍歴に嫉妬を訴えられたところで『面倒くせえ』の一言で切り捨てるだけであったが、千鶴には間違ってもそんな事は言えない。まったく、本気の恋愛とは厄介なものだ。小娘一人を相手に、必死で言い訳を考えている自分が滑稽にさえ思えてくる。
 やがて。
 暫く無言のままだった千鶴が、ゆっくりと顔を上げた。先刻までどうしても噛み合わなかった視線が、真っ直ぐ土方の瞳孔に注がれている。
「先生、あの……沖田さんの言ってた事って……」
「…………っ、」
 小声ではあるが、はっきりとしたその問い掛けに、土方は一瞬気後れしたものの、覚悟を決めて彼女と向かい合う事にした。いくら穏やかな少女であっても、罵倒のひとつも飛んでくるかも知れないが、それくらいは止むを得ないだろう。
「……ま、確かに、若気の至りで馬鹿やってた頃があったのは否定しねえよ。総司の言ってた事も、あながち嘘ってわけでもねえ」
「────」
 千鶴は黙って土方の言葉に耳を傾けている。乾いた唇を舌で湿すと、土方は少女の耳元に言い聞かせるように、一言ひとことを区切って告げた。
「けどな、心底本気で惚れた相手はおまえが初めてだ。
 前にも言っただろ? 教職のプライドと天秤にかけて、それでもおまえが欲しいと思ったから、腹ぁ括っておまえと付き合う事にしたんだ、ってな。
 そこまで入れ込んだ女なんざ、千鶴以外に居やしねえよ。その気持ちまで疑われるのは、さすがにきついな」
posted by 相模陸 at 23:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 同人
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